伊藤広規 ベースワークショップ後記

11月15日にルビーセンター録音スタジオで開催した「知の移転プロジェクト第4弾」は日本を代表するベーシスト伊藤広規氏を招いてのベースワークショップでした。ワークショップを振り返りとてもスピリチュアルなメッセージが溢れた時間だったとまだうっとりとしてます。

伊藤氏の講義は音楽論としても貴重でしたが、人生一般にも当てはまる普遍的な洞察がいくつもあり、これは多くの人に知ってもらいたいと思いました。

// 人間は誰もがグルーヴの天才!:ノリを鍛える //

Rythm Session

「人間は基本的に全員リズムは良い。しかし身体は不器用だよ。赤ちゃんは歩き始めるまでかなり時間がかかるし、言葉を話すまで相当努力しないといけない。」

音楽を聴くと身体がリズムにノってきます。頭は揺れ、指はタップし、足はステップを踏み始めます。これは誰もが自然に体験することですね。

伊藤氏はノリのある音楽を奏でるには身体のノリをそのまま表現することだと言います。だからまず自分がノッてないといけない。しかし私達は演奏を始めると弾くことに精いっぱいでノリを忘れます。伊藤氏いわく「プロでも演奏中にノレる人は少ない。」

ノリがよくなるには日頃からノル練習をしないといけません。だから会話する時以外はできるだけ音楽を聴き、ノってる感覚を養い続けることが大事だそうです。ノルこと以外にノル能力を高める方法はないのですから。

自らのグルーヴにノってを演奏するには「弾くこと」に意識がある間は不可能で、練習を重ね楽器が身体の一部になる状態に到達しないといけません。「弾くこと」を考えなくなった時に初めてノって演奏することができるそうです。

// グルーヴが来る!:ひたすら強く速く弾く練習する //

「弾く練習は強く速く。指が動かなくなってから本当の練習は始まる。もうこれ以上やったら死ぬと思うまでやって、5分休憩して、また始める。」

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身体に負荷をかけて能力を高める仕組みは筋トレで実際に筋肉をつけたことがある人は理解しやすいと思いますが、楽器のような道具に熟練しリズムを刻むということは筋肉だけではなく、神経がつながり、体内リズムが思考を飛び越えて信号として神経を走り道具を操れるようになるということですね。

伊藤氏は「グルーヴが来る」という表現を何回も使っていました。それはまるで、僧が「悟りを開く」と言ってるのと似た響きを持っていました。「グルーヴが来ると演奏するということがこんなにも素晴らしいものだったのか、生きてて良かった!」と感じるそうです。上手くなる為の練習であればどれだけ練習しても終わりがありませんが、一旦「グルーヴが来る」と「何をどう弾くかに迷いがなくなる」境地があるそうです。音楽家であれば、是非そんな境地を目指したいものです。

// 「とおる」音の出しかた:弦の指通過速度を早く //

「『とおる』音を出すためには強く弾くというよりは、指が弦を通過する速度が高めた方が良い音がする。」

伊藤氏があるスタジオレコーディングで意識的に強く弾いていたところ、居合わせた物理学者の方に「強く弾くより指の通過スピードが速くなるように弦を弾くともっと音のとおりがよくなるよ」と言われ、試してみたところ全くそのとおりだったということです。

その物理学者にもインタビューしたくなりましたが・・。ブリッジとネックから逃げていくエネルギーが一定であると仮定するなら、強く弾く(弦を大きく弾く)と振動は大きくなりますので、空気抵抗が大きくなり、それゆえ振動の減衰が早く起きるからかもしれません。それよりf=maで力は加速に比例しますので指の加速が単に弦を大きく引っ張るより効率よく音の「とおり」を実現しているのかもしれませんね。

// 人生ノっていこう //

さて、何を書いてもワークショップの中で全身で感じることには遠く及びませんが、言葉として残すことでまた誰かにこの体験を伝える時に役に立つ・・と信じながら書きました。結局グルーヴとは何でしょうか。

人間の「身体」は常にバイタルサイン(生命信号)を発しています。脈や脳波や心電図波形などがそうですね。僕はこのワークショップの中でグルーヴは「心(魂?)」のバイタルサインのようなものだと理解しました。音楽は魂のノリを身体に顕示する媒体なのだと。

人間は誰しも音楽を聞くことで魂の躍動を表現することができる。涙したり踊りだしたり周りの人と共感したり。

そして音楽を演奏したり作ったりする人は鍛錬により肉体を超越したところでグルーヴを旋律にのせていくような世界があるのでしょう。

でも、この世界は音楽に限らずどんな仕事や遊びにもあるのではないかと思っています。自分がノッてるときは何でも上手くいきやすい。ノッてない周りの人達もノせていく力があります。道具を使う仕事でもパソコンであれ金槌であれその道具が身体の一部であるような修練ができていれば生産性は自分のノリ次第ですね。

自分のノリを高める為にグルーヴのよい音楽を周りにはべらせておくことを心がけていきたいと思いました。


さて、このワークショップの後半はβTune の2楽曲にベースを伊藤氏に入れてもらうという贅沢なレコーディングセッションでした。そのことはまた楽曲リリースの時に触れさせてもらうとして、ここでは仮テークのボーカル音量を落としたMIXで伊藤氏のベースを堪能してください!